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最高裁判所第一小法廷 昭和41年(あ)3101号 決定 1967年4月27日

主文

本件上告を棄却する。

理由

被告人申熈朝の弁護人渡部直治の上告趣意第一点は、判例違反をいうが、所論引用の各判例は、事案を異にし本件に適切でなく、同第二点は、単なる法令違反の主張であって、いずれも上告適法の理由に当らない。

しかし、所論にかんがみ職権によって調査するに、暴力行為等処罰ニ関スル法律一条は、その規定にかかるような方法、態様による暴行、脅迫、器物毀棄が、ときに社会の平穏を害する危険のあるものであるから、刑法二〇八条、二二二条、二六一条所定の刑罰よりもより重い刑罰を科すべきことを規定したものであって、右各法条所定の罪と全然別個独立の罪を規定したものではなく、しかも監禁罪は、その手段として行なわれた暴行や脅迫をその中に吸収し、別罪の成立を否定するものであるから、監禁罪の手段として行なわれた暴力行為等処罰ニ関スル法律一条所定の暴行脅迫も、監禁罪に吸収され、それと別個に暴力行為等処罰ニ関スル法律一条違反の罰を構成するものではないと解するのが相当である。

そうすると、これと異なる見地に立って、監禁罪の手段として行なわれた暴力行為等処罰ニ関スル法律一条所定の暴力脅迫について、監禁罪のほかに同法違反の罪の成立を認めた第一審判決、およびこれを肯認した原判決は、法令の解釈適用を誤ったものといわなければならない。しかしながら、右各判決は、両罪を牽連犯の関係にあるものとして、刑法五四条一項、一〇条により監禁罪の刑をもって処断していることが明らかであるから、右違法は、判決に影響を及ぼさないものというべきである。

被告人李武栄および同富田一郎の弁護人遣水祐四郎の各上告趣意は、いずれも量刑不当の主張であって、上告適法の理由に当らない。

よって、刑訴法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 松田二郎 裁判官 入江俊郎 裁判官 長部謹吾 裁判官 岩田 誠 裁判官 大隅健一郎)

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